「今日はとても綺麗な新月だよ」

ぼくと顔を合わせるなりその人は言った。
「新月が美しいなんて分かるのかい」
目に見えないものを美しいと称する。
0の概念に近いものがある。
そこに"無い"という理論。この理論を打ち立てれば目の前はたちまち"無"の確立に溢れていく。
この星には大量の本しか無く、それでいてちっぽけだ。
二人の人が背中合わせに立ち、そのまま歩いたら10秒もしないうちに二人は出会うだろう。
これが仮に誰かの世界(ぼくの星もこんなものだけどね!)であるならば、この世界は釣部のない井戸のようなものなんだろう。
「こんなに暗い夜…」
彼はそう言って空を仰ぐ。
「改めて分かるんだよ。この暗い目の前を照らすのは月なんだと」
本の山から一冊を手にとり僕に開いて見せてきた。
1645…38281…27643561…
途方もない数字。
「何のへんてつもない本だろ?でも示す意味がある限りは何かしら大切な本だ」
僕は首を傾げるしかなかった。
困惑する僕を見て彼は微笑んだ。
「無くて知る必要性。月が見えないことで月は美しいと気付けるようにね」
「君は何を言ってるんだか、僕の星からじゃ月なんて見えないのに」
彼は何も言わなかった。
無言で本を閉じ、その辺の本に積み重ねる。
そしてその上に座った。
「大切な本とか言っておきつつ粗末に扱うんだね」
僕がそう言っても彼は何も返さない。
目を閉じて瞑想(みたいな感じに僕は見えるんだ)をしてる。
「…何かを聞いているの?」
「君の声以外は何も聞こえないね」
いや、と彼は続ける。
「厳密には君の声以外に頭は過剰反応しないかな」
「うん…?」



僕は彼の言っていることがやっぱり理解できなかった。



例えるならノイズとラジオ。
遠くなったり近くなったり、弱い電波と妨害電波のせめぎあい。
不確かな音声を聞き取るには目を閉じて耳を澄ます。
確信を持ったなら目を開けろ。今度は目を閉ざしてはいけない。
だからそれまで、本当を知るまで目を閉ざしていたい…。
だけど彼は一体何を言いたい?
「まさか…普段聞こえない電波でも聞こうとしてるの?」
「さぁ…ラジオがなくちゃやっぱダメじゃない?」
「夢の中でも電波はラジオに届くの?」
「どちらとも言えない。電波は時に自分の声を伝える」
それは届いてるってことじゃないの?と聞いたけど彼は答えなかった。
この様子じゃあ待っても返してくれない(さっきから何回かこのパターンが続いてる)から仕方なく質問を変えた。
「未来の自分とかそんなイメージ?」
「いいや。きっと何にも思わないのさ。そんな僕を俯瞰する僕がいるもの」
そういって何故か苦笑してみせてきた。
「でも見られてる僕も何も思わない。だって見ているのは僕で他の誰かじゃない。他の誰かが見ていたら、…怖いよ」
目元は冷静に、笑顔を湛えたその口元から怖い、という言葉は場違いのように思えた。
僕にとって彼は星座みたいな存在なのに。
星座みたいに、どんな時でさえ変わらずその姿を形取る存在。
「僕ならば良いんだ、何も介さず自分の顔を見たことがないくせに僕はそう思って僕を見ている」
或いは、と話を続ける。
「別人であるそれを僕と見ているかもしれない」

「…君の言ってることはよく分からないや」
「だって、そもそも僕は君にくだらない話をしているからね」
そう言うと彼は口に手をあて欠伸する。
「…あぁ、そろそろ時間だ。夢から覚めなくちゃ」
「もう行くんだ」
彼は頷く。
それから立ち上がって、伸びをする。
「僕の側で声を上げてる子がいる。朝早くから用事があるようだ…」
「ふぅん」
僕は彼の顔をまじまじと見た。
「僕以外にもとても身近な人がいるんだね…」
「あははっ」
彼が声を上げて笑う。
「自覚できるなら失わないまでだ」
「失うものかな」
「失うものさ」
「え?」
僕は思わず声を上げる。
だけどその時に彼の姿はもうなかった。
目覚めたって訳だ。
一人ぽつんと残されて、宙に浮いた疑問は沈んでくれなかった。
疑問を投げ掛けてももう無駄。
やり切れなかったけれど、落ち着くために目を閉じた。
瞼の裏に月を思い浮かべた。
それはとても綺麗で…目を開けたら朝になっていた。



おはよう僕。






"無い"という理論により確立される"大切さ"
仮に気づいていたなら失くしてしまうことを回避できるのだろうか?
その答えは目の前の人物が知っている。

言葉を交わし笑い合える存在、それこそが大切なものじゃないか・・・

だけれどいつまでも続くと何故言える?
忘れたいのは夢じゃない!いつか終わることへの恐怖なんだ。














ハーレム君が電波すぎて狼少年がツンデレる隙をあたえてくれません。

ラジオ少年にとって特別な存在である某青年は、出会いと別れというものを深くラジオ少年に残しています。
「あくまで夢は見るもの」と考える彼にとって青年の「夢を追う」という思考と実践は理解できないものでしたでしょう。
(どちらが正しいかというのは決められないですが、一つのものごとにとらわれると全て見失ってしまうにゃ。というわけです)
それが結果的に別れに繋がるとして、ラジオ少年は何を知ったのか。

「いつまでも続かない」とか「いつか失う」とか冷静に言うラジオ少年は果たして

青年との別れに未練を感じ恨んでいるのか
いずれ別れるという理由で出会うことに恐怖を感じているのか
別れるという辛さと運命を知って欲しいのか
そんなとあるニート君とのお話は、これはまた別に機会に・・・

とりあえず彼のイメージが曖昧すぎて私もよく分かりません。右脳フル活用でこの文章は書かれました。


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