たくさんのものをみてきました。



血管をいくつも混ぜて、目の前にグラスがある。

そのときなにをしていましたか。

水面に映る円、あぁこれが時計の音だ。

ふれたものはふれるものは
手の中に

なにもない。

何も無い。

なにも

何も

それはすべて

過ぎていった。


あの境界はなんだっけ?
これは今日見た僕の夢。
あの境界はいつだっけ?

伸ばした手は何度でも空を掴む。
その手を僕はぼんやりと見ていた。
澄んだ無音とはたから見えるピアノと音色。
空気に押し付けられる走れない感覚、この体は水平に横たわってる。
「だから寝たきり 夢の中」
ピアノを弾く人間が僕の心を読んだかのように語る。
むしろこれはそういう夢かもしれない。
思案しただけだったのに君は全てを感じとる。
最初から知っていたのかな。
僕がそう思案することを。
「…別に」
それはよくよく考えるととても気分の悪いこと。
こんなに、自分の思い通りにいかないのだから。
「好きでこうなった訳じゃない」


「可哀想な子」
何が
「世界は一瞬 瞬きは命…ああ悲しい 一つのすれちがい」
ピアノの音は変わらない。
でもその弾き手の声音は、不変なんかじゃない。
「また諦めた…?」
何を?
失える?
可能なことだったっけ?
失った?
なに?
そしてここにいる…。

ここはどこ?

「ああ悲しい」

ここは知ってる、でもどこから、どこに流れていく?
「人とは忘れを持つもの 忘れてしまえば永遠の別れとなる」
からくり仕掛けだっけ。
忘れても動かなくなるものは。
天井を回らない。ああ、僕は人形じゃないようだ。
じゃあ僕は人間でよかったっけ?
「ああ悲しい そうしてアリスは全てを忘れるつもりか」
そうか
「その名前は嫌い」
空虚、月の王様にはもう一つ名前があったっけ。
そしてもう一つ名前があることを思い出した。
「本当の名前はちゃんと持ってる」
あいつの星形は結晶の色
「テント・カントもそうだ。あいつも嫌な名前で呼ぶ」
僕はアリス
僕はアリス
アリスは二人もいらない
この世界に
アリスは一人もいらない
この世界に
壊し方を知らない
白と黒のボーダーの境目に線を何度も引いた
「嫌なものに不快な名前。アリスは逃げてばかり」
悪意を見せてごらんよ
悪意はリスの巣穴の中から除きこむ。
「僕のこと嫌いでしょ?介入しないでくれよ」
これは僕の
「いいや違う」
いいや違う?

気持ち悪いな

この感覚はとても鮮明な爪の先が描く波紋
だけど、この手、ああとても色が分からない
この手が見えたらなら白い壁にも顔が浮かびあがるはず
違ったかな
この手はなぞる僕じゃない手が見えたこれは
僕じゃない
どこかで針を落としたそうだ
12時になったら元通り
魔法が溶けるんじゃない!
僕は僕でいられなくなる
僕は最初から僕じゃなくて、ああ僕じゃなくて僕はあそこに立っていた
僕は何度も手を伸ばす。
触れられそうなあの影には、触れられそうにもなかった。
あいつは影だっけ?
僕はアリス
あいつは…何?

僕は彼女の名前を知らない。

音が無くなったことに気付いた
「ピアノ、とめたの?」
一つ一つが音だよね
途切れを知る切り刻んだパスタ
「二人のアリス」
もう一人と僕だっけ
「そぐわなければ消されるだけ」
無音の中で分かるのは自分と彼の声音だけ。
アリスの中の、トランプの兵隊
うすっぺらな主張で人間は踏み台に立とうとしていた。
それは彼じゃないんだ。
蓋をした水筒を振ったってそれは鏡の向こうじゃないんだから。
「イリーガルは一つではイリーガルにすぎず、されど二つのイリーガルは仕様とみなす」
消された僕はここにはいない。
だから。
「だったらいなくならないで」
目線の先には思い出しか残らなくなるんだ。
あのピアノは子どもの頃に触れた誰かの家のもの
似ているけど記憶の混乱?
あぁもう何も考えられない
何もかも多すぎる!
だけど何も無くせませんように。
だけど何もかも無くなりますように。
僕の前から

いつかその声に呼び寄せられました
あなたは言った
この声は硝子みたいだと
月を見上げては美しいと言った
それを見て私は知っていました
美しいものは美しいものの前では醜くなってしまうと
あなたは何も言わなさすぎた


…ふーん

「結局誰なの?君ってば」
最初から何も考えちゃいない。
ここでの思考は全て必然の道を辿って糸をよりあわせている。
プロセスに2つの筋なんてなかった。
「彼女もどこに行ったんだよ」
伸ばしていた手は始めから虚空を掴み慣れている
だからね、君のその笑顔にも親しみすら感じるのさ。
君に似たあいつの笑顔は僕に一つの疑問を知らせた。
あいつは君じゃないんだよね?
「ああ悲しい。アリスは何も知らない様子」
一つ思い出した
「ああ悲しい。自分自身を知らないアリス」
アリスは二人いるんじゃないか
「逃亡者がアリス」
だけど僕は、ここにいるよ
ここに逃げられないよ
ここは逃げられないから
でも逃げたみたい
アリスの手を振りほどいて

そっか。


僕が手を離したんだっけ。

アリスはここにいる
ここにいる
横たわって眠っている
意識は夢の中に
体は逃げられないこの地上で
僕は地上のまどろみアリス
もうすぐ目覚める
いいや痛みに耐えるしかない
心の意味
灼熱の小麦粉は風に舞うばかりで掴めやしなかった
だけど取り返せないんだろうか
この声は、もう歌を歌えない…
全てが等しく消えていく
あの影の色も、虹色の絵のなかで透明に反射していく絵の具のように
だけど

謝りたかったな

もう一度だけ、この卵の中に
ああ、煌めく光

僕は心臓を貫かれた

僕は心臓を貫かれた

僕は心臓を貫かれた

もう言葉には出来なかった。
あの笑顔が、僕には逃れられない運命だと笑う。
それならまた逆さまになろう
遠くで聞こえた笑い声
ああ、あいつの声だった…

目を覚ましたらすぐ、暗闇は明るみを取り戻す。
この無声の中で分かるのは自分の鼓動だけ
歌声を響かせるならもう遅い
この声は、どこかに届かない
本当に届くべき場所に石を投げ込もうとも空の上にしか見受けられないように
だけど歌おう
歌を知っているから
あのピアノの音色は

最初から奏でられない音はこの胸の中で鳴り響く

無声音楽。僕は歌うよ。













手書きブログで描いた漫画の文章化の筈が、案の定まどろみつつ書いた為一部どうしてこうなった

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