人は母親の中で世界の始まりを知る
(身の始まり?原始にたゆたう海の底?)
きっとぼくは無自我意識の夢を見ていた
海の中、単体の命が生まれた
そこが海だともしらないまま

泡に乗り(ママは起きて)
重力に沈み(ママは眠って)
命は増える事を知る(卵子は細胞分裂を繰り返す)
やがて体の節々は役割をもつ(胎児はまるで爬虫類のようだと感じた)

月が潮の満ち引きを導く
いつしか川をただ下るよう一方通行を知る
波が押し引くように同一上での振り子運動ばかりはなりたたないと…
海の底(雑音が聞こえる)
目を閉じた(月の光も届かない)
音が(うまれた)
ラジオのホワイトノイズ(みえない)
月の光を集めてクラゲが泳ぐ(さいた)
闇に慣れていた(みえた)
ここにぼくしかいない(…?)
やがて胎児は体内を知る。(やがて命は海を知る)
ああ狭い ああ狭い ぼくはもうここにいられない
(ああ広い ああ広い ぼくはもうここにいられない)
どこに行こうか、ああ苦しい、もう息が出来ない
泡はどこへ向かう?(ひとつだ ひとつだ何もかも)
進むはひとつだ!あの光を、泡の上る方向へ

(ごぼごぼ)

今ぼくは海の中にいる。
息はそう続かない。
周りは闇で、月の光は見えない。
息はそう続かない。
水の流れに耳を済ました。
息はそう続かない。
ただいま。この懐かしい体の中。
息はそう続かない。
もう行かなくちゃ。
息はそう続かない。
月はもう見えない。

ぼくらの目に見えない命は揺らぐ
母の胎内とは海のようなものだったろう?
ぼくはママの中にいるには大きすぎた
ぼくらは海の中にいるには小さすぎた
あんな大きな鯨たちでさえ海は広すぎる

原点に戻りたい。
もう一度始めよう。
最初から。
はじまりは、この息の出来ない場所から。
(はじまりなのに、もう息の出来ない場所へ。)


『さいしょにもどる』






海の底に沈んでいく気持ちで水に浮かんでいる気持ちで冷たい床に寝そべった。


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